2019年度秋季大会@明治大学(第一報)

投稿者: | 2019年9月12日

2019年度農業問題研究学会秋季大会のご案内(第一報)

会員の皆様におかれましては、益々ご活躍のこととお慶び申し上げます。

2019年度農業問題研究学会秋季大会を下記の要項で開催いたします。今大会では、個別報告6本の開催と1本の特別セッションが予定されております。会員の日頃の研究成果が発表されます。皆様の積極的なご参加をお願い申し上げます。

 【日  時】 2019年11月9日(土)10:00~17:30 (※会場受付は9:30から)

【場  所】 明治大学駿河台(御茶ノ水)キャンパス(東京都千代田区神田駿河台1-1)

 リバティータワー棟 12階1124・1125教室(午前 受付・個別報告会場)

12階1123教室(午後 特別セッション会場)

【大会内容】 個別報告、特別セッション、全国幹事会

】 会員2,000円 一般非会員2,500円 学生(会員・非会員とも)無料

【懇親会会場・参加費】未定(確報にてお知らせします)

2019年秋季大会案内案(第一報)

 <大会スケジュール>

Ⅰ.午前の部(10:00~12:00)――――――――――――――――――――――――――――――

※会場の受付は9:30からです。

個別報告(10:00~12:00)<12階1124教室,12階1125教室>

※個別報告は報告25分、質疑15分です。

第1会場: 12階1124教室

時間

報告タイトル/報告者

10:00

~10:40

賃金構造の地域性と長期的推移

氷見 理(北海道立総合研究機構酪農試験場)

10:40

~11:20

農外就業条件の世代差と農業労働力確保の条件―青森県五所川原市を事例に―

曲木 若葉(農林水産政策研究所)

11:20

~12:00

日本農業の「後退」と農業恐慌論

天野 元暁 (東京農工大学農学府)

第2会場: 12階1125教室

時間

報告タイトル/報告者

10:00

~10:40

TPP協定交渉の大筋合意以降の制度等改正と酪農の生産基盤の現状

宮田 剛志(高崎経済大学)

10:40

~11:20

中山間地域における現代の不在地主問題―新潟県十日町市松之山地域の地権者・耕作者間関係から 

礒貝 悠紀(東京農業大学大学院),堀部 篤(東京農業大学)

11:20

~12:00

田の賃借料の変動要因 ―標準小作料制度廃止の影響に着目して―

堀部 篤(東京農業大学)

 <昼 休 憩> 12:00~13:00

全国幹事会 12:00~13:00 <12階1124教室>

Ⅱ.午後の部(13:15~17:30)―――――――――――――――――――――――――――

特別セッション(13:15~17:30)< 12階1123教室>

テーマ:今日における農業問題研究の方法論的展開方向を考える

-国際的な農業食料政治経済学の主要潮流との接点という視角から-

(後援:日本農業市場学会)

【企画のねらい】

 本学会では,日本の資本主義の今日的到達点・性格や日本農業をとりまく国際的・グローバルな環境変化の下での「農業問題」について,農業構造問題を軸に据えた形で実証研究を深めかつ広げる注力をし,すこぶる固有性をもつ日本的農業構造問題の解明に成果をあげてきた。その場合の理論的・方法論的枠組みについて,農業問題研究会以来の底流には,資本主義の下での農業問題論,農民問題論,農民層分解論,小農経済論など,マルクス,エンゲルス,カウツキー,レーニン,チャヤノフ等々に淵源を有する,いわば農業政治経済学の「古典理論」がおかれ,あるいは意識されていた。
 今日の,新自由主義グローバリゼーションなどと称される,21世紀資本主義の下での日本および諸外国の「農業問題」を考察する上で,そうした「古典理論」が何らかの意味で有効性を持ち続けているのか,その継承発展ないし批判的発展ということが意味を持ちうるのかどうか。逆に今日の「農業問題」は,そうした「古典理論」の何らかの延長線上では分析しえない次元へと,質的に変転しており,その意味では「古典理論」とは断絶された理論枠組みが設定されている,あるいは求められているのだろうか。
  「古典理論」からの何らかの継続性なのか,あるいは断絶性なのか,いずれであるにせよ,現在の時点における本学会として何らかの程度で共有ないし参照できる「農業政治経済学」の理論的枠組みの可能性について,その有無も含めてあらためて検討することは,本学会が独自性をもった学会として方法論的にもさらなる展開をとげていく上で必要なことだろう。言うまでもなくそのような努力は,個々の会員や会員グループなどによって不断に追求されているところであるが,本特別セッションは,そうした試みの一つとして,上述のような「古典理論」を明示的にふまえながら国際的に活発化している,農業食料政治経済学(Political Economy of Agriculture and Food)の諸潮流の中から,「フードレジーム論」(「フードレジーム」にとりあえずもっとも簡単な説明を与えるなら「資本主義の世界史的発展諸段階の中心ないし主要部がもつ蓄積構造に照応的で,またそれを支える,国際的な農業食料諸関係-その国際分業構造,担い手,制度など-」)と,「資本主義の今日的到達点における批判的農業・農民問題論」とでも呼べる2つの潮流に着目し,それらが提示している理論的枠組みと,本学会における農業問題研究の展開方向との接点をさぐる議論を行なうべく,企画した。
 報告者には,「フードレジーム論」および「批判的農業・農民問題論」の国際的議論に参画し,またそれらを自らの実証研究に積極的に取り入れておられる会員お二人に,それぞれの潮流の理論的枠組みの到達点とそれを取り入れた実証研究のあり方を紹介・報告いただくようお願いした。
 これらの報告を受けて,わが国等の「農業問題」「農業構造問題」の理論的枠組みならびに実証研究との接点の所在についての議論を行ない,本学会が今日における農業政治経済学の方法論的発展方向を探る一助に付したいと考えている。

座長 磯田 宏 (九州大学)

【報告者と報告の概要】

(1)平賀 緑 (立命館大学ほか非常勤講師)

フードレジーム論のエッセンスと今日的到達点のレビュー,それをふまえた報告者によるフードレジーム論の批判的・発展的継承の提示,そうした方法論にもとづく実証研究例としてのご自身による「植物油の政治経済学」研究の紹介(平賀緑『植物油の政治経済学-大豆と油から考える資本主義的食料システム-』昭和堂,2019年,を中心に)

(2)池上 甲一 (近畿大学名誉教授)

今日の新自由主義グローバリゼーションという資本主義の世界史的段階における「農業・農民問題」とその「研究課題」についての国際的議論の注目点,報告者自身による長年の途上国(および日本)農業・農民問題実証研究におけるそうした国際的研究潮流の意義・意味,日本の農業問題研究者にとって示唆的あるいは積極的に摂取しうる論点の提示

(ICAS = Initiatives for Critical Agrarian Studies c/o Erasmus University Rotterdam, Book Series on Agrarian Change and Peasant Studies の明石書店・日本語翻訳監修者,また同シリーズJan Douwevan der Ploeg, Peasants and the Art of Farming: A Chayanovian Manifesto, 2013 翻訳担当の経験もふまえつつ)

https://www.goodreads.com/series/201356-icas-book-series-on-agrarian-change-and-peasant-studies

http://www.akashi.co.jp/author/a182359.html

コメンテーター
(1)清水池 義治 (北海道大学)・・・・・報告(1)を主対象に
(2)新井 祥穂 (東京農工大学)・・・・・報告(2)を主対象に

◆懇親会(18:00~20:00) *場所未定

<個別報告要旨>

第1会場(1124教室)<10:00~12:00>

○第1報告

 賃金構造の地域性と長期的推移

氷見 理(北海道立総合研究機構酪農試験場)

 本報告は、労働市場の地域性の変化を長期的・俯瞰的に明らかにすることを目的として、「特殊農村的低賃金」論と「安定兼業」論に関する議論を再検討し、さらに厚生労働省『賃金構造基本統計調査』を1970年~2015年まで5年おきに分析した。その結果、年功賃金での就業が全国的に普及した時期が1980年代後半から1990年代中頃であることを明らかにした。さらに賃金構造の質的な地域差は無くなり、賃金額の水準も小さくなりつつことから、賃金構造は収斂化の傾向にあると指摘した。

○第2報告

 農外就業条件の世代差と農業労働力確保の条件―青森県五所川原市を事例に―

曲木 若葉(農林水産政策研究所)

 本報告では,青森県五所川原市T集落の土地持ち非農家含めた集落悉皆調査結果から,北東北の地域労働市場構造および,これが農業構造に与える影響を明らかにすることを課題とした。賃金構造分析からは,当該地域の男子正社員は,40歳前後(「就職氷河期」)を境に,それより上の世代でいわゆる「安定兼業」化と非農家化が進む一方,それ以下の世代は農家・非農家関わらず単身者賃金にとどまるものが大半だった。また女子の農外就業機会は男子以上に限られていたが,若年層の自営農業への従事は限定的であった。こうした状況は,上層農家についても検出された。

○第3報告

 日本農業の「後退」と農業恐慌論

天野 元暁 (東京農工大学農学府)

 本国内の農業生産においては、高度経済成長期以降、農家戸数と耕地面積が一貫的に減少しており、農業生産力基盤の脆弱化が進行していることは明白であるが、こうした日本農業の「後退」局面に存在する発展側面を弁証法的に捉える必要がある。本報告では「後退」局面を、農業生産力視点のみからではなく、85年プラザ合意以降の円高による農産物輸入の拡大と、91年以降の平成不況による農産物消費の制限が絡み合って発生した「農産物過剰=農業恐慌」として捉える。その上で、農業生産力基盤の脆弱化を「過剰生産力の解消」として捉え直すことで、農業恐慌からの回復という日本農業発展の契機を探る。

第2会場(1125教室)<10:00~12:00>

○第1報告

 TPP協定交渉の大筋合意以降の制度等改正と酪農の生産基盤の現状

宮田 剛志(高崎経済大学)

 本報告では、TPP協定交渉の大筋合意以降の制度等改正の下での酪農の生産基盤の現状に関して次の2点から接近することを課題とする。第1にTPP協定交渉の大筋合意以降、農業競争力強化プログラム関連法案の1つとして、「畜産経営の安定に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する法律案」(以下、「本法律案」と略記)が成立し、日・EU・EPAの交渉妥結に至るまでの制度等の改正とその概要に関しての整理を行う。第2に地域別生乳生産の動向とその生産基盤の現状に関して実態分析を踏まえてその整理を行う。

○第2報告

 中山間地域における現代の不在地主問題―新潟県十日町市松之山地域の地権者・耕作者間関係から

礒貝 悠紀(東京農業大学大学院)・堀部 篤(東京農業大学)

 本報告では、現在、中山間地域において耕作放棄地や農地集積を妨げる要因となっている不在地主問題を取り上げる。地権者と耕作者との関係について①地区内の農地貸付者の在村状況を整理した上で、②地代の支払い、③土地改良投資の実施状況に着目する。更に、都内在住の地権者へのインタビューを踏まえ、現代の不在地主問題の所在を明らかにする。

○第3報告

 田の賃借料の変動要因 ―標準小作料制度廃止の影響に着目して―

堀部 篤(東京農業大学)

 賃借料(地代)は、地域農業構造を分析する際の重要な要素であるが、賃借料それ自体に着目した研究は意外にも少ない。そこで本報告ではまず、田の賃借料について、各農業委員会の公表値からデータセットを作り、地域別の年次変動とその要因を整理する。つづいて、水田農業地帯におけるいくつかの事例から、その要因を考察する。その際、標準小作料制度が廃止された影響に着目する。標準小作料制度に類似した制度を継続させている地域が北海道、山形県などに広がっており、他地域との比較対象とする。

 

以上